虚勢の銀貨

東村の日々の記録

SFは難しい?

「SF」というジャンルは、一概にこれだ、と示せるものではありません。

別にSFに限ったことではなく、ファンタジーもロマンスもホラーも青春もサスペンスもミステリーもそうかもしれませんが、ことSFに至っては「SFってどんなジャンル?」と聞かれる頻度が高いように思います。

 

 以前、純文学ばかり読む私の友人に過去作を読んでいただいたところ、「SFってガンダムとかスターウォーズみたいのだけだと思ってた」と言われました。確かにガンダムスターウォーズも広く知られたSFの金字塔のようなポジションを占めていますが、それだけがSFではありません。映画で例えますと、『パンズラビリンス』も『ミスと』も『アドレナリン』も『ディープブルー』も『ウォンテッド』も、充分SFになり得る要素を持っています。

 

 そもそも皆さんは、SFとはなんだと思いますか?

 SFは、Science Fictionの頭文字をとったものと言われています。また、Space FantasyやSukoshi Fushigiなんて言われてもいます。現在のSF界の巨匠曰く、「Sense of Wonder」こそ、SFに不可欠な要素らしいです。世界の不思議に触れてそれに憧れる感動、これがSense of  Wonderです。ただ私としては、これは言い過ぎなのではないかと思うのです。確かにSFは世界観ごと創るものが多く、その世界観に触れて不思議な感動を覚える、というのはある話です。

 では、ファンタジーはどうでしょう。昨今の異世界転生()ではなく、トールキンやルイス、グウィンのハイファンタジーな世界に触れて感動はないのでしょうか。そんなことはありませんよね。ファンタジーの世界に触れても感動は勿論ありますし、むしろSFの世界よりもファンタジーの世界を好む人の方が多いように感じます。

 それでは、SFとはいったいなんなのでしょうか。

 

 世間一般的なSFの定義は「宇宙」「ロボット」「科学」「特殊能力」こんなところが多いのではないでしょうか。確かにそれは間違いではありませんが、あくまでSFの一要素にすぎません。毎度のことではありますが、これから書くことは独断と偏見に満ちた私見ですので、ご了承の上で読み進めてください。

 

 私は、SFに限らず全てのジャンルは明確に線引きできるものではない、と思っています。明確な線引きとは「正三角形=各頂点の確度が60°の三角形」のように例に漏れない定義ができることを表しています。この形式を、文学作品という感動を届けるものに当てはめられるでしょうか。ロマンスは全てほろ苦くなければならないでしょうか。ミステリは必ず凄惨な事件が起きなければならないのでしょうか。青春は絶対に中高生でないとならないのでしょうか。

 全部ノーでしょう。上の条件に当てはまらない素晴らしい作品も、世の中には山のようにあります。それらにジャンルとしての否を突き付けてまで、数式のような定義付けは必要ないと思っています。

 

 さて、では私が思うSFとはなんなのか。

 それは、「IFの世界と現実感のハイブリッド」だと思っています。

 IFの世界、つまり人の想像上にしか存在しない世界が、なにがしかの説明を受けて読者に少しでも「ありえそう」と思わせることができるか、それこそがSFであるか否かだと考えています。

 例えば、作中にドラゴンが出てきて、「ここはドラゴンが住む谷」と割り切れるのがファンタジー。「ゲノム解析して再生した翼竜が変異を起こした」「トカゲが放射線の影響で変化した」「ナノボットが予期せぬ変態を生んだ」のように、なにかしら背景を付け加えることで「ありえそう」と思わせるものがSFだと思っています。

 だから、SFであることに末来の技術も、オリジナルのガジェットも小難しい科学の理論も必要ないんです。私が敬愛する作家の著作にそうしたものを全く使わない日常ものを書いています。ですが、それは完全にSFでした。無一文の少女が人柄だけでわらしべ長者をするもので、SFらしいガジェットも、未知の技術も出てきません。特殊能力も宇宙も出ません。それでも、SFでした。「現実にこんなことがないとは思うけど、でもありそう」そんな作品でした。

 

 SFは決して、夢想家たちの駆け込み寺ではありません。むしろ、実直に現実を見据えて、リアリティのエッセンスを詰め込んでいる分、とても現実に近いものなのです。

 「今の技術で再現できないから荒唐無稽」なんていう人もいますが、私たちが作品を愛でるとき、現実と作品の時代や時間のずれを気にしますか?

 時代小説を読んで「銃使えば楽じゃん」、ロマンス小説のガラケーでメールを打つシーンを読んで「ラインを使わないとか意味がわからん」、コナンドイルを読んで「指紋とDNA解析すれば解決」なんて、それこそ荒唐無稽で下品だと思いませんか。

 少なくとも、私がツイッターで交流させていただいている方々は、好きなジャンルは各々ばらばらでも作品を作品として、その世界に耽溺する魅力を知っていると思っています。そうでなければ私はネット上とはいえ、絡んだりしていませんから。

 

 もし、欠片でも興味があるのなら、SFに手を出してみてください。

でもいきなり「有名だから」ってだけでディックやイーガンに行ったりしないでくださいね。彼らは、SF好きの中での巨匠ですから。純文学の入門として『人間失格』や『ドグラマグラ』へ走るようなものです。

 周りに、SF好きの方がいればその方に聞くもよし、ネットで調べるもよし。それこそ私に聞いていただければ、できる限り好みに合うものを紹介しますよ。

 

 皆さんの読書生活が、今後も実りあるものでありますように、私のおすすめSF二冊のリンクを貼っておきますね。

 

魚舟・獣舟 (光文社文庫)

魚舟・獣舟 (光文社文庫)

 
アイの物語 (角川文庫)

アイの物語 (角川文庫)

 

 

 

 

ゲヘナより愛をこめて