虚勢の銀貨

東村の日々の記録

頭の中はワインセラー

 言葉、というものはある意味生薬です。どんな言葉を一つとっても、適切なタイミングに適切な量を摂取できなければ、意味がないどころか毒にもなってしまいます。これは何も愛を囁く特別な言葉に限らず、私達が日々話している、一見取り留めもないようなものにさえ言えることです。ただ、敢えて「ある意味」と言ったのは全てがそうではないからです。今日はそれに付随して、私の作品の作り方を少し書いていきます。

 

 言葉は確かに生薬、もしくは生ものですので、発生してすぐに伝達ができないと腐ってしまいます。会話や対話には流れがあり、言葉はその都度、いろんな顔で出現してきますが時期を逃すと本来情報伝達の手段であるべきなのに、伝える情報がロストしたり、正確に伝わらなかったりします。ですが、これはあくまで伝達することに主眼に置いた言葉の使い方であって、例えば小説のように「味わうこと」を目的としたものは事情が変わってきます。

 

 上記の話は一端置いておいて、このブログを読んでくれている皆さんは、恐らくは私のツイッターから飛んでくるはずですので、大半は作家志望の方であろうことを前提にしています。私は割とネットで知り合った方と実際に会うことに抵抗がないタイプですので、フォロワーさんと結構気軽にごはんを食べに行ったりしています。その際にやはり自分の作品や進捗状況について話すことが多く、最近では藍沢さんと飲んできました。

 その中で時折出るのが、「作品をどう作り始めるか」の話題なのです。これまで何人かのフォロワーさんと実際にお会いして、例に漏れず上記の話をしますが私と一致いたり同じような作り方をされている方は一人もいませんでした。そもそもこれは生得的なものでしょうし、きっと誰かに話を聞いてそっくりそのまま真似したり自分のものにするなんて不可能でしょう。だから、ここで少し私のやり方を紹介します。

 

 まず私が基本的に住んでいるのはSFで、世界観ごと構築するタイプの作品を作ります。一部が現在視点なのに極一部だけが近未来ガジェットを使って活躍するもの(『G.I.ジョー』『キングスマン』などなど)とは違い、国や宇宙船といった、少なくとも舞台を丸ごと作るタイプです。これを前提としてください。

 私が作るときは、どちらかというとストーリーがあって登場人物を構築する、という形ではありません。舞台なり登場人物なり、武器なりマクガフィンなりで「あ、これ使いたい」ってなるものが第一の核となります。

 私の処女作をベースに話を進めますと、「サイボーグだけど、そうなるしかなかった女エージェント」みたいな感じでした。その構想を元に、キャラクター像を作り、そのキャラクターが闊歩していても違和感のない世界を作り、エピソードを作り、思想的なテーマを組み込み、ストーリーを作り、って感じで一個一個積み上げています。レゴブロックのようにパーツパーツを組み合わせる、というよりも粘土で塑像のような作り方です。

 処女作に限ってはキャラクターが先行しましたが、世界観が先に決まることも勿論あります。直近で公募に出したものは、「宇宙コロニーで生活していて出産まで管理されている社会なら」からスタートしました。世界観スタートの場合は、世界観→テーマ→登場人物→ストーリーと決まっていきます。

 両者をまとめると、多分私はストーリーを一番最後に決める傾向があるようですね。私は「こういうストーリーにして、より魅力的にするにはどんな登場人物がいいかな」とは考えず、「この登場人物ならこういうときどう動くか」と考えていきます。だからキャラクターの視点や立場が固まらないとストーリーを決められないのです。勿論、これらを構築したプロット後に細かいところの矛盾や不具合はちゃんと修正しますけどね。

 また、思想テーマに関しては必ず含めるようにしています。女エージェントなら「倫理と道徳は乖離する」、宇宙コロニーなら「死刑宣告者の子孫は」、他にも「死≠悪」「心の在りか」などなど。かなり抽象的なことが多いですが、それはまあ思想的なテーマですので、いいかなって思ってます。

 

 さあ、ここで冒頭に話したことが出てくるんですが、「言葉は生もの」の文言に則るなら思いついたものは即プロットを組み、即文章に起こすべきです。ですが、皆さんも分かると思います。プロットは多少なり置いておくと、それまでにない要素が見えてきていい具合に醸成されることがあります。むしろ、初志だけではどこか味気ないものになっていることの方が多いかな、と個人的には感じています。だから、伝達を主とする言葉は生ものでも、味わいを主とする言葉は醸造ものなのです。難しいのは、置けば置くほど味わいが増すほど単純ではない、ってところなんですよね。

 

 さてさて、皆さんどうでしたか。きっと私の作り方は皆さんのものとは違っているはずです。同じように見えても、多分面と向かって細部まで明かしていけば相違点だらけなはずです。時折、こうして自分のやり方を深掘りしていくのもいいものですね。割と頭の中が整理された気がします。実際は原稿の〆切が迫っていてそれどころじゃないんですけどね。。。

 

 それでは皆さん、良い創作ライフを。

 

ゲヘナより愛を込めて。